kenkyukanさんの選んだ新刊部門4コマオブザイヤー2021!
ホレンテ島の魔法使い (1)
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谷津 |
芳文社 |
2021-02-25 |
昔いたという魔法使いの伝承にかこつけて観光地化をもくろむ日本のどこかの孤島を舞台にしたマジカルコメディ(?)。一見してファンタジーに見えてメッキがはがれると簡単にぼろが出るパチモン感が何とも言えない。一方でキャラクターたちが頻繁に繰り広げるミュージカル仕立ての歌と踊りを見せるシーンも面白く、これがまさにテーマパーク的なイベントの表現でもあり、あるいはこのマンガならではの他の4コマにはない魅力になっています。ところでみなさん「ごちうさ」の世界を日本だと感じたことはないでしょうか。通貨が日本円だったりキャラクターの名前が日本風だったり、原点は日本にあるテーマパークだったのではないかと思える節があります。この「ホレンテ島」はまさにその日本の欧州風テーマパークの裏側を描くようなコンセプトで、まさに「裏ごちうさ」だと思っています。街並み全体を保存しようという意識が希薄な日本の観光地は、その多くがテーマパーク的なスポットであり、一歩外側に出ると現実の雑多でしょぼい光景が広がる「ざんねん坂」が目の前に広がるシーンは一番の衝撃でした。最近ではこうした日本の現代的な光景にある種の憧れを覚える海外のフリークもいるようで、これはそうした日本ならではの姿を描いた作品として注目に値します! |
またぞろ。 (1)
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幌田 |
芳文社 |
2021-04-27 |
「ホレンテ島」が裏ごちうさなら「またぞろ。」は裏スロウスタートでしょうか。それぞれの事情で留年した3人の女子高生の悲喜こもごもの学校生活をリアルに描く(?)。「スロウスタート」が、主人公の花名ちゃんの切ない心情を常に描きつつも、総じて明るいコメディがメインとなっているのに対して、こちらはどうあっても行けてない3人のダメな性格を赤裸々に描く構成となっています。いわゆる「陰キャ」「コミュ障」を描く作品は、ここ近年のきららでもトレンドのひとつになっていますが、この作品のさらにぐっと地に着いたリアルさは何とも言えない。一方で幌田さんの描くキャラクターはきめ細かでとてもかわいくて、どこまでも愛おしくて応援したくなるんですよね。 |
ぎんしお少々 (1)
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若鶏にこみ |
芳文社 |
2021-07-27 |
進学を機に離れて暮らすことになった2組の姉妹がそれぞれの場所で出会い、ぎこちないながらも新しい関係を築いていく物語。タイトルの「ぎんしお」はピンと来る人もいると思いますが銀塩カメラ、すなわちフィルムカメラのことであり、撮影失敗も多く現像までに時間のかかるオールドカメラの魅力を細やかに表現すると同時に、これが彼女たちの関係を繋ぐキーアイテムになっています。いわゆる趣味性にオーバーラップした作品ではなく、彼女たちのぎこちない関係性を繊細に描く叙情的な作品性にどこまでも惹かれますね。 |
瑠東さんには敵いません! (1)
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相崎うたう |
芳文社 |
2021-09-27 |
これがライトノベルなら「前の席の彼女がオタクの自分にだけ優しい」みたいなタイトルになるんでしょうか。とにかく学園のヒロイン的なポジションであるはずの瑠東さんの素顔がめちゃくちゃ魅力的です。そんな彼女が教室ですぐ前の席にいるという関係性も良くて、表紙になり損ねたという横から見たふたりを切り取ったイラストにも惹かれますね(コミックス内カラーイラストで見られます)。
作者の相崎うたうさんの前作「どうして私が美術科に!」は読者の望まぬ形で中途で終了を迎えてしまいましたが、その直後にさらに秀逸なタイトルを出してくるとはその実力は本物ですね。 |
しあわせ鳥見んぐ (1)
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わらびもちきなこ |
芳文社 |
2021-10-27 |
美術系の大学でちょっと伸び悩んでいた女の子が、バードウォッチングを趣味とする学生と出会って一気にその面白さにはまっていく物語。さらには単なる観察対象としての鳥ではなく、「人との良好な距離感」を模索するバードウォッチングの在り方が、やがて彼女の創作性を発展させていく。こうした物語も魅力ですが、一方で詳細な鳥類観察の知識描写も素晴らしく、緻密な見分け方で観察できる身近な鳥たちの姿にも純粋に興味を惹かれる内容になっています。「ゆるキャン△」から続く新たなきらら趣味枠となるか注目ですね。 |