Shift_Pettaさんの選んだ新刊部門4コマオブザイヤー2021!

はなまるスキップ (1)
みくるん
芳文社
2021-05-27
彗星の如く現れた近年のまんがタイムきららの中でも屈指の怪作。ピクニックを題材にしているのにも関わらずきららにおける趣味モノのフォーマットを大きく逸脱し「ぽかぽかする」という教条の下に妙に陰湿な無法を働くのが本作の実態である。実際単行本の帯でも「かわいいキャラに騙されるな!!」と銘打たれており、きららが20年間で築き上げてきた萌え4コマのイデアをおちょくる反逆児の様な扱いもされやすい。しかしよく観察してみるとこの作品を構成しているのはデフォルメされたキャラクターによる毒がチクリと混じるようなある種の悪友的なテンポの良いやり取りであり、むしろ「三者三葉」などに代表される古典的なきらら的ギャグの潮流の影響を多分に受けていることが分かる。さらに合間に挟まるマジョリティに所属し損ねた人間がSNSや金銭に拘泥しながら刹那的かつミニマムな共同体で孤独に向き合う様は「ぼっち・ざ・ろっく!」 や「ななどなどなど」等の最近の作品に連なる現代的な生きづらさというテーマを独自の視点から扱っていると言えよう。またライブ感に溢れた柱やきららベースのサブタイトルは今この瞬間に読む我々の"日常的"な読書体験を演出するのに一役買っており、総じて反逆者どころか古今東西のまんがタイムきららを徹底的に研究した末に(少し変わった方法で)リスペクトしている非常にクレバーな作品と言えるだろう。
またぞろ。 (1)
幌田
芳文社
2021-04-27
「人間がへたくそ」をここまで迫真に描いた物語はこれまでになかったように思われる。展開される日々の生きづらさに根差した描写は一部の人にとってあまりにも共感性が高い。この作品の優しさは他でもない自分自身を赦すことで初めて結実するのではないだろうか。私は終わりの見えない緩やかな苦難を見守ることしかできない。
妖こそ怪異戸籍課へ (1)
柴朗
芳文社
2021-11-26
妖怪を現代社会における無戸籍者ととらえ社会福祉の観点から描いた斬新な視点の作品。ニッチながらも原典の特徴を秀逸にデザインされた個性豊かな妖怪たちやその周辺を巡る時にユーモラスに時にシビアな世界観は読んでいて全く飽きることのない読後感である。また今年の作品の中ではずば抜けて構成力が高い作品と感じる。単話における起承転結と1巻全体としての起承転結が衝突することなく第一話から読み手の期待を全く裏切らない作品であり新時代を切り開くに相応しい堅実に纏まった一作である。
みこへんげっ!
まえ葉
芳文社
2021-07-27
まんがタイムきららにおけるヒロイズムを洗練させていった最前線には記憶を巡る変身巫女という作品があった。作品主題として直球に「悩める者の救済」が据えられており日曜日の朝の変身ヒーロー番組だったとしても全く相違の無いクオリティだったと思う。惜しくは作者事情で1巻完結になってしまった点であるが、是非作者にはまたまんがタイムきららで作品を描いて欲しいと個人的には思う。
ぬるめた (1)
こかむも
芳文社
2021-01-27
萌え4コマの大きな武器の一つであろう「雑多な会話劇」を洗練させていった日常系への大いなる愛を感じる一作。最初のアンドロイド設定こそファンタジーを思わせるが、本質は毎日バカ騒ぎをする若者のとめどない日々であると言える。ジャンルそのものに大きなリスペクトを払いつつより洗練したテーマや巧みな視線誘導の演出で繰り出される秀作である。

Shift_Pettaさんの既刊部門4コマオブザイヤー2021!!

ご注文はうさぎですか? (9)
Koi
芳文社
2020-12-25
今年10周年を迎えた名実ともに「まんがタイムきらら」の王である。作中時間は3年目に到達し一部のキャラは学校や生活圏すら大きく変動した。そして新しいキャラクターを3人も投入しながら全く破綻しない話づくりには毎月脱帽させられる。個人的には今回辺りからTVアニメ3期キャッチコピー「出会いが人生を変える」をより意識的に作り込むようになったと感じる。多数のキャラが織り成す化学変化をあとどれくらい見届けられるのだろうか。
まちカドまぞく (6)
伊藤いづも
芳文社
2021-02-25
ついに明かされたせいいき桜ヶ丘の過去、最悪な黒幕の那由多誰何、シャミ子の覚醒。逆に見どころが無い部分を教える方が無理があるほどの情報量である。この世界を覆うとせん邪悪な力に負けないようにシャミ子一同は正念場に立たされているだろう。2期も来年スタートし、ますます加速する本作から目が離せない。
ななどなどなど (2)
宇崎うそ
芳文社
2021-04-27
性格が終わってる箱入り娘の社会復帰コメディもついに2巻目である。可愛い絵柄や骨太に作り込まれたギャグラインの高さとは裏腹に描かれる繊細の反動である攻撃性のリアリティは地に足のついた話であると言える。前巻が緊急事態宣言の真っ只中にありながら電子版の売り上げを考慮しいわゆる2乙を回避できた点は僥倖であった。きららMAXの中堅層として今後よりいっそう伸びて欲しいと思う。
紡ぐ乙女と大正の月 (2)
ちうね
芳文社
2021-08-26
1巻から引き続き綿密な取材を通した大正時代の風俗を再現しながら描くエスの筆致は読み手を唸らされる。今回は丁度1921年の7月から11月を描いた出来事ということになっており、まさに100年の歴史に抗うまんがタイムきらら作品と言えるでしょう。
星屑テレパス (2)
大熊らすこ
芳文社
2021-09-27
敗北と挫折、まるまる1巻分かけて壮大な痛みを伴う物語を展開した今作はもはや第二巻の出せる貫禄を優に上回っている。画力、コマ割り、演出、構成、全てのクオリティレベルが非常に高くこの作品の可能性はまさに宇宙レベルであると断言してかまわないだろう。そして小ノ星海果こそが誰の受け売りでもない彼女自身の夢に向かって翔ぶ新時代のまんがタイムきらら主人公である。

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