32TG3さんの選んだ新刊部門4コマオブザイヤー2021!

ホレンテ島の魔法使い (1)
谷津
芳文社
2021-02-25
「ここは夢と現の汽水域」───、この作品の1巻が出た時に付いたキャッチコピーだが、私はこれ以上にこの作品を端的かつ的確に表現した言葉を知らない。 魔法使い伝説を観光資源にしている離島を舞台に繰り広げられる本作は、島の伝承や古文書を紐解いて島に隠された真実を探る伝奇ファンタジーと、科学やプログラムといった現代的な視点から魔法を分析・再定義する現代異能ものが高いレベルで調和した快作である。 やけに世知辛かったり現代的だったりするコメディ展開のところどころに「魔法」が顔を出し、それらが繋がることによって一つの隠された真実が露になってくる。日常と非日常の壁が破壊され、曖昧になっていく感覚は唯一無二でクセになる。日常と非日常の調和をテーマにした作品は数多く存在し、私もこの企画で他に何作か紹介させていただいているが、それらの作品は非日常を日常として取り込んでいるのに対し、この作品は日常と非日常が薄皮1枚隔てて隣り合わせに存在し、些細なことでそれを突き破って非日常に「侵入」するような読み応えになっているのが特徴と言える。幻想的な演出が多いのも特徴で、読んでいる内に本当にリアルとファンタジーの境目が分からなくなってくる。まさしく夢と現の間に位置しているこの作品を、是非皆様にも体感してもらいたい。
またぞろ。 (1)
幌田
芳文社
2021-04-27
昨今の「きらら」では、「ぼっち・ざ・ろっく!」や「ななどなどなど」に代表されるように、人生を上手く生きられない人たちを主軸に据えた作品が増えてきている。その中でも、この「またぞろ。」は恐ろしくなるほどの繊細なタッチで「生き辛さ」を描き出した作品だ。なにせ主要人物4人の内3人が留年生、残る1人も留年予備軍というところから話がスタートするのだから…… 主人公の穂波殊は、どれだけ気を付けていても朝寝坊をしてしまう、必要なものを家に忘れてきてしまう、挙句の果てに留年してしまうといった「人間がへたくそ」な人物である。この「へたくそ」度合いは意識すれば改善できるような並大抵のものではなく、誤解を恐れずに言えば然るべき機関を受診すれば何らかの名前が付くレベルである。彼女自身もそんな自分のことを情けなく思っており、理想と現実の間で己の自尊心をすり減らしながら、それでもどうすることもできずに生きている。 この作品で私が最も心を揺り動かされたのは、穂波殊とその幼馴染である堤麻里矢に纏わる一連のエピソードである。二巻範囲への言及も発生する為詳細は省くが、このエピソードを通して最後に語られる、「周りの人も大切な人に幸せに生きていってほしいと思っているが、どうしてあげたらいいか分からずにいる」という部分に完璧に打ちのめされてしまった。例えどう生きていけば良いかわからなくても、あるいはどう手を差し伸べればいいか分からなくても、それでも生きていく。生き辛さを抱えながら生きている人たちとそんな人たちを支えたいと思う人たち全てにこの作品が届いてほしいと切に願っている。
妖こそ怪異戸籍課へ (1)
柴朗
芳文社
2021-11-26
「妖怪」というファンタジーの存在を、「現代社会の枠組みからあぶれた者たち」と捉え直した新感覚お役所ファンタジー。妖怪にも日々の営みがあるという点に着目し、彼女たちのファンタジックな特徴を日常的なやり取りに落とし込んだコメディは非常にテンポがよく、かつユニークである。一話一話の中にその回のゲストの妖怪の特徴とそれにちなんだドタバタ劇、そして心温まる解決が過不足なく収まっており、毎度毎度そのクオリティの高さには舌を巻くばかりだ。その一話完結のストーリーの裏では主人公・睦子に関するメインストーリーの準備が着々と進められており、一巻終盤で大きく動きを見せてくる。また、この作品は決して明るい話題だけではなく、人間の暮らしを脅かすような妖怪もいること、そして善良な妖怪からしても人間との間には未だ大きな隔たりがあるということを随所で見せてきており、この作品における「日常」は「まちカドまぞく」が描いているような、登場人物たちの努力により保たれている薄氷の上の日常であることが窺える。妖怪というファンタジーを現代社会にユニークに落とし込み、かつその歪みにも真摯に向き合おうとする意欲的なこの作品をぜひ手に取ってみてほしい。
はなまるスキップ (1)
みくるん
芳文社
2021-05-27
令和のきららに突如現れた、まさに怪作と呼ぶべき一作。 作品のあらすじをかいつまんで説明すると、「ピクニック同好会」というクラブに所属するキャラクターたちが、ただ「ぽかぽかする」という目的の為だけにあらゆるルールを超越して好き放題するという、絵柄の可愛らしさに反してなんとも反社会的な代物である。 この作品の特徴は何といっても作中の至る所で繰り広げられるやたらと過激でありながら妙にウィットに富んだギャグ描写であろう。自分は元々この作品のような、良く言えば切れ味の鋭い、悪く言えば性格の悪いギャグが好きなところがあり、連載中は毎月今回はどんな無法を働くかとワクワクしながらページを開き、その度にこちらの予想の上を行く暴れっぷりに大いに楽しませてもらった。更にこの作品の魅力は不条理ギャグに留まらず、はみ出し者のコミュニティをしっかり描いていることにもある。それが顕著なのが、一巻終盤に展開されるシェフ子というキャラクターにまつわるエピソードであろう。この傾向は昨今の二巻範囲ではますます強まりつつあり、それぞれのキャラクターのエピソードを単話で描きつつも、それらを通して見るとある一人のキャラクターの虚無性が浮き彫りになるという秀逸な話運びが展開されている。 過激なギャグで強いインパクトを与えつつ、裏側では繊細なタッチでキャラクターを描く本作品。非常にピーキーではあるものの、触れずにいるには勿体ない作品だ。
ぬるめた (1)
こかむも
芳文社
2021-01-27
この作品、設定こそ人造人間という非現実なものであるものの、その魅力はむしろ恐ろしいまでに高度な「現実の空気感」のエミュレートにある。 この作品は主に人造人間の少女くるみとその開発者ちあき、更にその友人であるさきなとしゆきの女子高生4人組の会話劇で進んでいく。多くの場合話はくるみが突拍子もない改造を施されるところから始まるが、それに対する彼女らの反応は極めてフランクだ。目の前で今まさに人造人間がトンデモ機能を披露しているにも関わらず、彼女たちにとってはそれは「日常のバカ騒ぎ」の一部にしか過ぎない。そう、この漫画は非現実的なSF的要素を我々が実際に友人と繰り広げるような日常的やり取りに咀嚼、再構成する力がずば抜けて優れているのだ。ファンタジックな設定を日常的枠組みに落とし込み、そのギャップを武器とする作品は枚挙に暇がないが、この作品はそれらの中でも頭抜けて「友人と繰り広げる他愛もないやり取り」の表現に特化している。我々が普段あまりにも自然に行い過ぎて、かえって気付かないような細かいやり取りを一つ一つ拾い直し、丁寧に組み立てることで生まれる“リアル”感は、荒唐無稽なSF要素とのコントラストで我々を楽しませてくれると共に時折こちらの盲点をついてハッとさせてくる。驚異的な観察眼と構成力に裏打ちされたこの新感覚日常SFをぜひ手に取っていただきたい。

32TG3さんの既刊部門4コマオブザイヤー2021!!

ご注文はうさぎですか? (9)
Koi
芳文社
2020-12-25
まちカドまぞく (6)
伊藤いづも
芳文社
2021-02-25
ななどなどなど (2)
宇崎うそ
芳文社
2021-04-27
ぼっち・ざ・ろっく! (3)
はまじあき
芳文社
2021-02-25
星屑テレパス (2)
大熊らすこ
芳文社
2021-09-27

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